『紀要 特撮批評』第1号
2025/8/1
テーマ「特撮論―昭和30年代を終え、1980年代を迎えるまで―」
- テーマの説明―巻頭言にかえて
- 良心回路の完成――1970年代「変身ブーム」の歴史像に関する試論―― 藤黒優
- 昭和40年代のブーム終焉以降、1980年以前の『ウルトラマン』シリーズの消費動向 神谷和宏
- 「ウルトラマン」の進む先 萱沼友未
- 映像のカデンツァ ─《セブンのダン性》とシューマン─ 小西収
テーマの説明
元号の年代と西暦の年代―計算を要するような、繋がりの悪い年代同士をなぜ繋げるのか、まずその説明が必要だろう。
大澤真幸は、「昭和30年代」という言われ方があるのに対し、「昭和50年代」という言われ方があまりされず、「1970年代」「1980年代」という西暦による区分が前景化してくる点に注目し、「ある時期に昭和という元号から西暦へ準拠点が変わっている」のだという。大澤の論からは、ある年代へのまなざしというものから、その年代を論じる批評や、その年代を再現(=表象)する空間が生起する様が想像される。この点を意識して目を特撮の状況に転じたい。
昭和30年代を懐古的に描く『続・ALWAYS 3丁目の夕日』(2007年)は冒頭、ゴジラが当時の街並みを破壊するシーンから始まる。昭和30年代の集合的な郷愁の一つにゴジラがあることを想起させる。
一方で、サブカルチャー論、ポップカルチャー論で頻繁に論及される1980年代もまた、特撮にとっては特別な年代であった。東映のプロデューサーであった吉川進が「『ギャバン』が始まる直前の81年というのは、東映ヒーロー存続の大ピンチだった」と語り、第2期『ウルトラ』シリーズを多く監督した山際永三は、子どもが大人向けの番組を見だして、自分たちは「子ども番組から失業させられたというか、お呼びがかからなくなっていった」と語る。
特撮作品は激減、特撮やアニメの再放送もまた激減し、ビデオによる任意作品の選択的、また巻き戻しや早送りを駆使した分析的な視聴が普及するにはさらに時間を俟たなくてはならなかった。やがて特撮はその特徴的な演出が嘲笑の対象にさえなっていくのだった。その一方で、特撮が郷愁の対象と化していくのもまた80年代であり、その意味で特撮にとってはアンビバレントな年代でもあった。
さて今回、最も注目したいのは、この「昭和30年代」と「1980年代」の間、つまり昭和40年(1965年)~昭和54年(1979年)は、第1次怪獣ブーム(1966年~1968年)、第2次怪獣ブーム(=変身ブーム、1971年~1975年)と呼ばれる特撮の黄金期があったという事実である。
このことを踏まえて、第1怪獣ブームの萌芽を、昭和30年代に見る論や、80年代以降の状況を70年代のうちに見る論、あるいは特撮への注目に由来する独特な「昭和40年代論」「1970年代論」といったものが生じ得る。
